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Case 1. 春日 美紀(かすが みのり)
月曜日の朝は、社会人に問わず学生たちにとっても憂鬱な時間である。昨日までの開放感を抑えて、各々がこれからの5日間、義務を果たしていく最初の日だからだ。社会人には労働の義務が、学生には勉学の義務が。
春日美紀にとっても、月曜日の朝は憂鬱な時間である。しかし、昨年とは違い今年は体調についてはすこぶる良好だった。アレルギー体質のある美紀は、3月に「先生」が「処方」してくれた療法で見違えるように回復した。そのおかげで憂鬱は格段に晴れた。それでも、今日は特別に輪を掛けて憂鬱な朝になる気配が朝起きたときからあった。それはおよそ月に一度訪れる憂鬱。だが女性特有の「月のもの」ではない、恥辱と快楽を併せ持つ憂鬱。それは誰にも……友人や両親にされも秘密にしているものに起因する。
その日もいつもと同じように、美紀は7時45分発の快速電車に乗った。座席は既に前の駅までに満席となっており、この駅で乗車する者はつり革か手すりにつかまる他なかった。美紀も他の乗客と同じようにつり革をつかみ、何時も変わることの無い車窓から見える風景を眺めていた。途中のトンネル内で車窓がうっすらと映す姿見で、彼女は身なりを整えた。また、自慢のさらりとした長髪に寝癖を発見して少しだけ落ち込んだ。
この電車では、学園の最寄駅までは30分かかる。駅から学園までは徒歩で10分。始業は8時45分であるから、「いつも通り」なら大丈夫、十分間に合う。そう美紀は考えた。だが、電車に乗ってから15分経ってその考えが甘かったことを美紀は「体感」する。
突如、美紀は自分の腹部の内部に顫動する感覚を覚えた。それは小さい震えであるが、次第に腹部を円状に被う形に広がった。小さな無数の顫動が無秩序に腹の内側から美紀を攻め立てた。
「ふぅ。」と美紀は息を漏らす。そして下腹部に、特に臀部に力を入れる。力みの為か、頬は少し上気し、うっすらと赤味を帯びた。背中と脇の下に嫌な汗をかいているのが、彼女にはわかった。
「なんで、こんなところで……。」
眉をしかめる。美紀が周囲に聞こえない、自分の耳にも届くかというくらい小さい声で呟いた。今月で3回目になる「月に一度の憂鬱」は、それまでと違い急に、しかも突然に訪れた。こういう事態は「先生」――生物を教鞭に持つ音桐響子(おとぎり
きょうこ)先生のケアを受けていた。今までは――とはいっても2回だけだが――先生に会うまで、つまり学園に着くまではこんなことはなかった。「来る」のは決まって下駄箱の前くらいだったからだ。
「どうしよう。」
美紀は焦る。だが、前の停車駅はもう過ぎてしまった。この快速電車は、次はもう彼女が目的地とする駅まで停まらない。このまま駅につくまで何も起こりませんように。美紀は心の中で祈った。
大腸を内から刺激する無数の顫動は、やがて桜色の肉管の壁を愛撫しながら直腸へと至る迸りとなった。
「ヒッ!!」
美紀が小さい叫びを発した。瞬間、彼女の肢体が跳ねた。だが、周囲の人間には聞こえなかったようだ。いや、聴こえていても聴いていない振りをする。それが都会に生きる者の習性だ。
美紀は声を出さぬよう唇を噛んだ。臀部に力を入れ続けている脚には震えがきていた。先陣がついにアヌスに達したのだ。大腸の奥底から直腸を抜けてやってきた「それ」らは、出口を探してアヌスを刺激し始めた。
肉の襞を伝って液体が染み出してきた。直腸が刺激を受けて染み出してきた直腸液だ。美紀は漏らすまいとなおもアヌスに力を入れるが、それは逆に直腸液を搾り出す行為となった。
プシャッ!!
肌で感じる破裂音と共に、肉門で圧縮された透明な粘液が、噴水となって外に噴出し、ショーツを濡らした。ショーツで受け止められなかった分は、内股を伝い、足元に水滴を落とした。肉門に道を封じられていた「それ」らは、この機を逃さなかった。噴水がこじ開けたアヌスの穴から「それ」が這い出てきた。
プリュッ、ブリュッ……。
「イヤ……」
ゾクッ!背筋を電撃が走った。美紀は涙目になった。
一度堰を切ったら、「それ」らは彼女の意志とは関係なくアヌスをこじ開けて止めど無く流れ出てきた。濡れたショーツの内側、肌と生地の間に少し赤味を帯びた乳白色の物体が蠢いていた。「それ」らは長さにして3cm、太さ5mmくらいの蟲……線虫だった。蟲達はショーツの中で蠢き、身にまとった粘液を泡立たせた。
クチュッ、クチュッ、クチュッ。
アヌスはその口をぱくつかせ、中から蟲を絞り出し続けている。蟲の数が増す毎に、泡だった粘液がいやらしい音を立てた。透明だった液は乳白色に変わり粘度を増した。ショーツから染み出た液が足元までに達し、銀の糸を作っていた。
既にショーツの御尻の部分は膨らんでいた。直腸液に浸った真白のショーツは透けて、内に包み込んでいるおぞましい光景を露にしていた。生地の下に蠢く白い線虫の乱舞が見て取れた。粘液と蟲にまみれたショーツは支えを失いつつあり、重力に従い下にずり落ちつつあった。
時計を見た。駅に到着するまであと5分ある。あと5分だけなら今のまま我慢できるかもしれない。唇を噛んでじっとこらえる美紀はそう考えた。
そのとき、列車がカーブにささかった。満員の車内では身をかわすスペースは無い。揺れる列車につられて、美紀は他の乗客と同じくシェイクされた。
ズルッ……。
美紀は青ざめた。ショーツの隙間をぬって蟲が何匹が外の世界に出たことを感じた。周りに悟られないように、それとなく下を見てみる。白濁した液体の雫と白い紐が3,4匹のたうっているのが見えた。
「いやぁ……」
もう限界だ。人外の秘密を持つが故の羞恥心。そして何よりも蟲がアヌスから這い出すぬめりと生暖かさ、何より蟲が腸内粘膜に与える触感に「快感」という名の感覚を覚えたことにショックを受けたのた。目の前は何も見えない。両耳には何も聞こえない。
突然、音がよみがえった。雑踏の音が聞こえる。顔を上げてみると目の前の自働ドアは開いていた。駅のホームに目的の駅の名前が見えた。美紀は小刻みに走り出すと、改札口とは反対の方向に向かった。
車内に残された線虫には、誰一人として気づくことはなかった。乗り降りする人の雑踏に揉まれ踏まれ、その駅から発車する頃には跡形も残っていなかった。
女子トイレに駆け込んだ美紀は、這い出た汚物で汚さないようにブレザーとスカートを脱いだ。スカートにはしみができていた。既に粘液でひたひたになっているショーツを、恐る恐る気を付けながら脱いでいった。
「はう。」
両の手で受け止めているショーツは、線虫でたわわになっていた。粘液の海で沢山の虫達が泳いでいた。ショーツ越しに彼らの顫動を手のひらいっぱいに感じていた。
「これが……いっぱい……あたしの中に……。」
それが美紀が誰にも……友人や両親にされも秘密にしているものの正体だった。
プチ……プチ……。クチュッ、チュルッ、ジュルッ。
耳をすますと、泡のはじける音。虫同士が体躯をすり合わせて出す粘る音が聞こえてくる。臭いも感じる。腸粘液特有の甘たるい臭いだ。この音が、臭いが、隣の部屋にいる人に伝わりはしないか。そう思った美紀は羞恥で顔を真っ赤に染めた。
ふと、ショーツから放たれる臭い変なところがあることに彼女は気づいた。便臭特有の臭さが無いことに気づいた。別の臭い。それがどういうものか表現できないが、決して嫌な臭いではない。これも蟲達の影響かしらと、美紀は思った。
内股にまだなぞる感覚があった。見ると、蟲が数匹へばりついているのが見えた。トイレットペーパーで内股,秘部と蟲を綺麗にふき取ると、鞄の中に用意していたビニール袋に蟲まみれのショーツと共に放り込んだ。「処方」してくれた先生のいいつけだ。蟲は決して外部に漏らしてはならない。蟲の存在は秘密事項だった。
その蟲は、学園の生物教師、音桐響子が極秘に独自に開発した新種の寄生虫であった。寄生虫は宿主を守るために様々な抗生物質を生成するという。その研究応用がこれであった。春日美紀はアレルギー体質で、特に季節の変り目に著しく体調を崩していた。それを見かねた響子が彼女に「処方」したのがその蟲だった。I種と響子が呼ぶその寄生虫は、他のそれと違い、生命力が強く、脅威的な繁殖力を持つ。宿主には、おおよそ思いつく限りの疾病に対応できる抗生物質と、様々なホルモンを提供する。 I種の欠点は、長所と同じくその生命力,繁殖力の強さである。約1ヶ月で卵から成虫になるI種は、増えすぎた個体を宿主の体外に排泄するのである。こういう「生理現象」の際、通常は響子が宿主のケアを行う。しかし、美紀は今朝、この事態に当たってしまっていたのだった。先ほど排出されたのは、腸内のキャパシティを越えた分のI種の幼虫だった。
急にアヌスが熱を持ち始めたことを美紀は感じた。アヌスの口がヒクヒクと蠢いているのも感じた。彼女はすぐに、先ほどショーツと共にビニール袋に処分した蟲が全てではないことを悟った。学園まで我慢することはもう出来そうにもない。肉門の出口にはもう既に蟲の顔がのぞいていた。彼女は意を決した。
「蟲は決して外部に漏らしてはならない。」
先生のいいつけを思いだし、美紀は震える脚を開いた。ビニール袋の口をアヌスにかぶせるように、御尻にあてがった。袋の持ち手を前と後ろに来るように、ビニール袋にまたがるような格好になった。外から見た袋の下は、沢山の凸凹が蠢いていた。 「ふん!」美紀はアヌスの緊張を解き、下腹部に力を入れた。
そして、
「はあぁ!」
ビュルビュルビュルッ!!
アヌスから直腸液と共におびただしい量の線虫が飛び出した。ビニール袋がだんだん重くなっていくのが袋をつかむ両手の感覚でわかった。
「あぁ……ああっ!ヒイッ!!」
美紀の顔が羞恥と快楽で歪んでいく。
ブビュッ!ブピュッ!ププッ!
アヌスを次々と通過する生暖かく柔らかい触感が、便通にも似た開放感を呼び起こした。肉門がこじ開けられる度に、眼前に真白の光が瞬くのを見た。
ピュブッ……チュルルルル……
直腸内に留まっていた白い蟲は全て排出された。残された粘液が力なく口開いたアヌスから流れ落ちる。アヌスの喘ぎにあわせて、その勢いが弱くなりまた強くなった。
そのとき彼女は後ろの口から滴る粘液とは別の、尿ではないヴァギナからのしたたりを覚えた。
「あたし、濡れてる……?」
恍惚から覚めた彼女は、事が終わっていることに気づいた。白い魔物に蹂躙され、ヒクヒクと痙攣するアヌスからは少しばかりの粘液の雫が滴り落ちるだけになっていた。
「あたし……何ていやらしい。」
涙が出た。それは悔しい涙だったかもしれない。恥ずかしい涙だったかもしれない。あるいはもっと別の涙だったかもしれない。だが、今の美紀にはわからなかった。
手にしたビニール袋には、全てを出し尽くしたずっしりとした重量感があった。その中身は彼女の柔肌よりも白くて柔らかで暖かく、腸液にまぶされヌラヌラと光る蟲の群集があった。袋を支えている手の平をその内側からくすぐっていた。
袋は口をきつく閉め、鞄の中に隠した。学園に着いたら、まず先に先生に会ってこれを渡さなければならない。脱いでいたスカートとブレザーを着たときに美紀は気づいた。ショーツの替えは無い。今日は体育は無いからブルマも無い。コンビニは学園前ならあるが、駅前には無い。売店があるだけだ。どうしよう。ここから学園まで10分。平坦な道程だからスカートの中を覗かれることはまずないだろう。
道中で気づかれませんように。彼女は下着をあきらめることに決めた。
女子トイレから出たとき、美紀はヴァギナとアヌスに風を感じた。恥毛が風に揺れている感覚を覚えた。妙な開放感と電車内とはまた違う羞恥心に戸惑いを覚えつつそれらと闘いながら、その場を逃げるように、彼女は早足で学園に向かった。
終(多分続かない)